音楽は道の上にある。


世界各地のストリートミュージシャンがネットを介して一つの曲を演じようというプロジェクトがあり、その演奏風景を記録した動画がネットで話題を呼んでいる。音楽を通じて平和をアピールしようという主旨のプロジェクトのようで、その演奏を収めたCDや関連商品も売られている。

 楽しい試みだけど、ちょっと勿体ないなあと思ったのはそこで取り上げられてる曲が"Stand By Me"だったりあるいは"One Love"だったりのいわばスタンダードナンバーであることだ。なんというのか、色々な”方言”を喋る人々があえて”共通語”で会話してるような感じ。”よそ行き”の音と言ったら言い過ぎかな。折角遠く離れたもの同士が一つのものを創り上げてみようとするなら、たとえばお互いが初めて聴く”方言”に戸惑いながらもお互いに通じる新しい”言葉”が少しずつ出来上がっていけばもっと楽しいんじゃないかと思ったりもする。

 ロマ(いわゆる”ジプシー(注)”)と呼ばれる人々が持つメロディやリズムは、彼らの祖先がインドを旅立ち数百年かけて東欧や南欧にたどり着くまでの道の途上で土地土地のリズムやメロディを貪欲に消化して出来てきた、いわばリズムやメロディの”雑交配”が生み出した”雑種”の音。それはスタイルや作法に煮詰まった”ロック”や”ポップス”を尻目にしたたかでエネルギッシュだ。

 彼らは数百年の時をかけ期せずしてメロディやリズムを雑交配させてきたわけだけど、今や私たちはデジタル回線を介してリアルタイムで世界の音とセッション出来る時代に生き合わせている。駅前広場でのストリートミュージックもいいけれど、デジタル回線という”路”を旅して新しい音楽を創り出すデジタルストリートミュージシャンの姿を想像するのもなんだか楽しい。

注)かつて”ジプシー”という言葉には差別的なニュアンスもあったことから現在では他称する際は”ロマ”と呼ぶようになってきています。