これってレイシズムとどう違うの?

日本経済新聞のサイトでものすごい署名記事を読んだ。
http://nikkeibp.jp/sj2005/column/i/06/index.html
http://nikkeibp.jp/sj2005/column/i/06/02.html
筆者は産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・論説委員古森義久氏。
「平常時には隠れていた人種問題が浮き彫りに」と題して、先の米国でのハリケーン被害地で人々が略奪行為をしている、という現地報道に関しての考察である。ちょっと長くなるが引用する。

↓ここから引用

(前略)
 現地からの報道によると、略奪者たちはフォークリフトまで使って、高級商店の入り口をぶち壊して、宝石や家具などを盗んでいた。銃砲店に侵入した一味はライフルやピストルまで持ち出していた。要するに災害にあった市民たちが生存のために、やむにやまれず他人の食糧を入手するという種類の行為ではないのだった。水害で食べ物、飲み物がなくなり、近くの商店から飲食物を生きるために調達するという性格の行動ではないのだ。金目の商品を手当たりしだい、という悪質な略奪であり、窃盗なのである。被害者が水害に遭って避難した人たちであることを考えれば、その留守を狙って、被害者の財産を奪うというのは、きわめて悪質だといえる。しかも街全体でそんな略奪行為が展開されているのだ。日本では考えられない事態だといえよう。
 この略奪にはさらに重要な特徴があった。こうした略奪を働く人間たちのほぼ100パーセントが黒人なのである。テレビの映像や新聞の写真でみる限り、略奪者はみなアフリカ系市民、つまり黒人だった。この事実は現地からの他の一部の報道でも裏づけられていた。
 いったいなぜみな黒人なのか。
 南部のニューオーリンズ市は総人口48万のうち67パーセントが黒人である。だから住民の多数派は黒人なのだが、それにしても略奪者は100パーセント黒人なのである。ハリケーンによる水害は自然発生の緊急事態として市民みんなに平等に襲いかかった。被害を受ける可能性は人種や民族の相違にかかわらず、みな平等である。だから被害を受けたことを原因として盗みに走るならば、略奪者のなかに白人やアジア系の市民が少数でもいたほうが自然となる。ところがそれがいないのだ。
 しかもさらにおもしろいことに、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポスト、CBSテレビといった大手マスコミは略奪に走る住民たちが判でおしたように黒人である事実を報じていない。大手テレビは映像で黒人の略奪の光景を流しても、解説のなかではその単純な事実には触れようとしない。略奪自体については報道も論評も山のように伝えても、その行為の実行者たちがほぼすべて単一の人種に限られることは伝えないのだ。
 大手マスコミは略奪の実行犯たちを「水害の犠牲者となった他の市民の不幸につけこみ、その市民たちの貴重な財産を奪うハゲタカのような略奪者たち」と非難していた。大手マスコミに登場する識者たちの多くは「警備する側の警察や軍隊が略奪阻止のためには自由に発砲すべきだ」とまで主張していた。しかしその一方、大手マスコミではこの略奪の背景として「貧困や抑圧」をあげ、ある程度の理解を示す論調も散見された。

 こうした現象について日ごろ大手マスコミのリベラル偏向を大胆に非難する保守派の論客ラッシュ・リムボウ氏が論評していた。リムボウ氏はラジオのトークショー・ホストとしては全米第一の人気を保つ重鎮である。
 「大手マスコミは人種差別主義だと非難されることを恐れて、略奪者がみな黒人だという重要な事実を報じないのだ。リベラル派の政治家たちは逆に『黒人は日ごろ抑圧されているので、緊急時に略奪をすることも理解できる』という態度をとる。いずれも間違った対応だ」
 どう考えるにせよ、いまのアメリカ社会がなお人種や階層のギャップという複雑で深刻な課題を抱えていることがこうした現象を生むことは間違いない。
 たしかにニューオーリンズなどの都市では黒人の所得は平均を下回る。学歴も黒人は平均より低くなる。その原因が社会全体の黒人に対する偏見や差別だという説にも理はあろう。とはいえ偏見や差別ならば、アジア系市民も対象になる部分がある。だがアジア系の略奪者は皆無なのだ。なぜ黒人だけなのか。
 この点、リムボウ氏はびっくりするほど大胆な考察を一日三時間もの自分のラジオ番組で述べていた。
 「ニューオーリンズでここ数日、起きたことは数世代にもわたるエンタイトルメント(社会福祉の受給権利)の失敗の現象なのだ。自分の努力よりも政府からの福祉の受給に依存する心理が『自分たちは社会で恵まれない層だから、社会や政府から特別の恩恵を受けることのできる特権がある』という潜在意識を生んできた結果なのだ」
 つまり黒人は政府への依存が強すぎて、いざという事態には他者の財産をも入手してよいとみなすような独特の心理を抱きがちだ、と示唆しているのである。その示唆の背後には社会福祉を拡大してきたリベラル派の「大きな政府」への辛辣な批判がある。黒人の側からすれば、飛んでもない糾弾ということになろう。だが略奪者はみな黒人だという事実を否定することもできないのである。しかも過去の天災や暴動の際に大都市で起きた他の大規模略奪も、実行者はほぼすべて黒人だったというのも事実なのだ。
(後略)

↑引用ここまで

>略奪自体については報道も論評も山のように伝えても、その行為の実行者たちがほぼ
>すべて単一の人種に限られることは伝えないのだ。

って...。ニュースで「略奪者は全員黒人です。」ってアナウンスすることに何か意味があるとでも?

それよりもこの人のメディアリテラシーの低さにまず驚く。
アメリカのハリケーン報道に関するメディアバイアスを黒人たちが抗議しているのをなにもご存じないのだろうか。
最近でもラッパーのカニエ・ウェストがライブ中に「メディアの取り上げ方も気に入らない。おれたち黒人を映すと『略奪してる』と言うが、白人ならそれが『食料を求める』って表現になる。」というような発言をして物議をかもしたし、それまでにも人種によるメディアの扱い方の差をマイケル・ムーアが映画の中でも再三皮肉っぽく取り上げているというのに。(アメリカの犯罪発生件数は約20%減少しているのに犯罪報道は600%増加しており、さらに黒人の犯罪報道がことさらにメディアにより強調されることで恐怖による人種間対立を増幅させているとマイケル・ムーアは映画の中で述べている。)
実際に"Looting or finding"で検索すればカニエ・ウェストと同じことを訴えているサイトが沢山見つかる。(たとえばこことかこことか。)
また、

>ハリケーンによる水害は自然発生の緊急事態として市民みんなに平等に襲いかかっ
>た。被害を受ける可能性は人種や民族の相違にかかわらず、みな平等である。

と書かれているが、平等でなかったからニューオーリンズの人々は怒っているのだ。
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/590
そもそも災害対策のための施策が貧困層の居住地区では充分でなかったことが糾弾されはじめており、また増水しだした際にも車を持てない貧困層は荷物を持って避難できる手段を絶たれていたのだ。(当局に無断で持ち出したスクールバスで被災地と安全地帯を何度も往復して自動車を持っていない人々を救出した若者のことがここに取り上げられている。)

古森氏が書いていることは検証の存在しない単なる印象論にしかすぎない。
恐ろしいのはこれが床屋談義ではなく、巨大なメディアのオピニオンを形作る人の文章であるということだ。
昨今のメディアにおいて印象論がオピニオンになってしまう傾向がどんどん強くなっているような気がする。

ちなみに古森氏が引用する「保守派の論客ラッシュ・リムボウ氏」とは、アブグレイブ収容所の捕虜虐待報道に関してラジオで下記のような発言をした人物である。

リスナー:
「裸の囚人を積み上げてるのは、まるで大学のクラブの悪ふざけみたいな・・・」

リンボー:
「全くそのとおり!それこそ俺の言いたいことなんだよ。スカルアンドボーンズの入会儀式と変わらないことなのに、こんなことで人々の人生を台無しにして、米軍の努力の邪魔をして、ちょっと楽しんだというだけで、兵士たちをこき下ろそうとしてるんだ。兵隊たちは毎日狙撃されてるんだぞ。俺は連中がお楽しみしただけだといってるんだ。息抜きしただけさ。鬱憤を晴らさなきゃいけないこともあるだろ?」
(中略)
「ところで、よーく見てみなよ、(虐待)写真を。俺だけの考えかもしれないが、こんなのはマドンナとかブリトニー・スピアーズとかがステージでやってることと同じ程度のことだよ。こんなのは、米教育協会(NEA)が承認すればいいんだよ。だって、NEA承認のリンカーン・センターのステージでも“Sex in the City”でも見れる類のもんだよ。」(引用:暗いニュースリンクより。翻訳も。)