ポルシェの包丁

この四本の包丁は私の台所に置いてあるものだ。
一番左側は有次の鋼製包丁、その右がスイス・エーデルワイス鋼製、そしてイギリスのシェフィールド製包丁、一番右側はポルシェデザインのステンレス包丁である。

有次の包丁は鋼製だけあってムチャクチャ切れるし研ぎも容易だが、使用後少しでも水分が残っていると翌日には赤錆が浮く。手入れに気の使う包丁である。
だもんで普段使いはエーデルワイス鋼の牛刀で、これ一本で肉でも野菜でもなんでもこなしている。
フォルムに惹かれて買ったポルシェの包丁だが、手のひらでもてあそんでいる限りではいたって気持ちの良い道具だ。しかしながら調理に使うとなにかひっかりのある使用感でいまいち気持ちよくない。面取のあるハンドルに握り方を強制されてしまう。野菜などを調理するときには包丁のアゴの部分をよく使うが、こいつは口金代わりに付いている金属の突起が微妙に指の邪魔をするのだ。またハンドルと刃の重量バランスが悪く、流しの扉に付いている包丁差しに差すとハンドルがお辞儀して安定せず危なっかしい。
さらに私は刃物を研ぐのが大好きなのだが、この包丁はなぜだか研ぐ気がしない。研ぎ傷の付いた包丁は使っている人とのつながりを感じさせるが、ポルシェの包丁は使う人とのパートナーシップを拒否しているかのようなデザイナーの意図を感じるのだ。

極めて個人的な結論。ポルシェの包丁はオブジェとしては一流だが、道具としては三流である。

ちなみにシェフィールド製包丁は牛刀だったのだが、研ぎ減りして刺身包丁のようになっている。それでも切れ味は全く衰えていない。たいしたもんだ。
木製のハンドルが腐ってきたので隙間をウッドパテで埋め漆塗りで仕上げてある。(仕上がりを気にしなければ漆塗りは実は自宅で簡単にできるのだ。)