スパイカメラの血をひく。

ミノックス35GTは、スパイ映画でよく小道具に使われる超小型カメラが有名なミノックス社より80年代初頭に発売された35mmカメラである。
趣味性の高すぎる超小型カメラのみのビジネスに限界を感じたのか、激戦区の35mm銀塩カメラに参入したのはいいが既に時は遅し、日本製の安価なカメラが世界市場を制覇した後だった。
ビジネスとして成功したとは言えないカメラだけど、そこここから設計者の想いが伝わってくるような感じがしてわたしの好きなカメラのひとつだ。

プラスティックにはプラスティックの美しさがある。
メッキやシボで金属や皮革を装うプラスティックにはどこか貧しさを感じさせられる。
ミノックス35GTにはメッキパーツや革シボなどはどこにもなく、プラスティック本来の美しさを感じさせてくれる。
レンズ保護のための前蓋を開く操作はいささかのガタもなく官能的な操作感だ。
セルフタイマー使用時などの据え置きに配慮して、前蓋が90度よりわずかに大きく開きカメラの前面を支える。この前蓋はカメラを上下逆さまに構えるとフード代わりにもなる。
前蓋を畳んだらタバコのパッケージぐらいの小さなカメラなのに、巻き上げはノブではなく一人前にレバーなところがなかなか撮る気を盛り上げてくれる。

右に写ってるのはウクライナ製のデッドコピー、キエフ35A。
全くのデッドコピーなのに操作感は雲泥の差、キエフの方はどこを操作してもゴリゴリした感じでなんだか樹脂が削れていくような操作感だ。色も鈍重な感じでセンスが悪い。ここまでコピーしておきながらダサイ方向にオリジナリティを出してどうする。
余談だが、ウクライナやロシア製の新品カメラはなぜかものすごくクサイ。
検品係のロシア人はみんなトイレで紙を使わずに手で拭いているのではないか、という疑いさえ抱いてしまうような臭いがするのだ。カメラは顔の前で構える道具なのでこれは結構キツイ。

ミノックス公式サイト