少年は人を殺すか?

ああここでもか、と感じたことなのだけど。

電話で友人と世間話していたら彼女が「この国はおかしくなってる、若い子が次々凶悪犯罪起こすし。」と言い出した。
彼女がパートナーと住んでいるところは京都の閑静な処で、特に最近少年による凶悪犯罪が起こったことはない。にも関わらずなぜこういう感覚を持っているのか?

少年による殺人や強姦などの犯罪は実は減少しているのだ。

1955年ぐらいからわが国では殺人の検挙率が下降し続けているのだけど、その下降要因は若者が殺人を犯さなくなったことによる。(長谷川真理子 『日本における殺人率の減少』「学術の動向」2005年10月号 )先進諸国の都市部ではほぼ一様に若年層の殺人検挙率が上昇しているのにかかわらずわが国だけ少年による殺人が減少している事実は、欧米では研究の対象にさえなっているという。
また法務省作成の犯罪白書によると少年による強姦は減少し続け、平成8年に至っては過去最低となっている。警察の資料でもいささか往生際の悪い表現ではあるが少年非行が減少していることを認めている。(平成16年 少年非行と育成活動の概況)

にもかかわらず、犯罪報道の数は1985年を100とすると2000年代では1000以上と、爆発的に伸びているのだ。(浜井浩一『日本の治安悪化神話はいかに作られたか——治安悪化の実態と背景要因(モラル・パニックを超えて)』)
これは以前に書いた「アメリカでの黒人による犯罪報道量の激増と、減少している黒人による実際の犯罪発生率との乖離」と、二つの集団の相互理解を妨げようとする力になっているという点を含めて状況がとてもよく似ている。
冒頭の友人が感じてる不安感は、実はメディアによって作られた架空の「体感治安の低下」なのではないか。実際テレビというものをほとんど見ない私は体感治安の低下をそう感じない。

実は少年による凶悪犯罪のピークは1958年から1966年までで、つまり現在50代から60代のオッサンオバハンたちが一番少年期に殺人や強姦などの凶悪犯罪を犯した世代なのだ。
メディアでは若者のネット有志による自殺などを扇情的に取り上げるが実際の自殺件数の増加を引き受けているのはその世代だし、また電車で乗務員に暴力をふるい検挙される率が高いのも中高年だという統計が出ていたりする。
接客業に就いている友人たちも、イヤな思いをさせられるのは若者よりも中高年だとよく口にする。(フリーマーケットに出店したことのある人は思いきり頷けるだろう。)
わたしの住んでいるマンションでも朝夕の挨拶がちゃんと返ってこないのはなぜか年輩者に多いし。

そんなオッサンオバハンたちに「今の若者はゲームとかインターネットのせいで現実と仮想の境目がなくなり犯罪に走りかねないのだ!」と声高に叫ばれてもなあ。
教育基本法を改悪しようとしたりゲームを規制しようとする前にメディア・リテラシーを身につけたまえ。若者がバカなのは当たり前だけど、何十年も生きてるのにバカなのは救いがたいぞ。


追記:
kangaeru2001さんの少年犯罪データベースというサイトが面白い。少年犯罪が減少していることがよくわかるようにまとまられている。逆にノスタルジジイ(by森巣博氏)いうところの教育勅語による素晴らしい徳育教育を受けていたはずの若者が、現在ならワイドショーが舌なめずりして飛びつくようなとんでもない犯罪をガンガンやってる。

追記2:
わたしは少年犯罪が減少していることが単純に喜ぶべきことだとも思っていない。