オートバイを「デザインする」ということ。

わたしの入居しているビルのテナント仲間の間では時ならぬオートバイ話で盛り上がっている。
新たに免許を取得したひとやオートバイを入手したひとが続出。なにやら私にも再びバイク熱が感染しつつあり、すっかり疎くなってしまった二輪車事情を把握するために久し振りに国内各メーカーのサイトを巡ってみた。

オフロードバイクの車種がすっかり減ってしまい、それどころかトライアルバイクというジャンルは消滅してしまっており一時ツーリングトライアルにずっぽりハマっていた私としてはかなり寂しい。またロードスポーツ車もなんだか元気が無い。どことなく既存メカのマイナーチェンジで生き長らえている感じ。
さらに驚いたことに125ccのマニュアルミッション車が絶滅してる。
初心者のライダーであってもマニュアルミッションの新車に乗ろうと思えば殆ど250cc以上からしか選べない。最近のオートバイはほぼメンテナンスフリーになりまた特に神経質なエンジン特性を持つものも無くなったので、初心者でも普通に街乗りをするのには随分ハードルが低くなった。でも「乗れる」と「乗りこなす」のとは話が違う。例えが適切じゃないかもしれないけど、初心者がいきなり250ccや400ccのロードスポーツ車に乗るのは乗馬を始めたばかりの人がサラブレッドの悍馬に乗るようなものだ。一昔前のレーサーに近い中型車のパワーを自在にコントロール出来る楽しみを手に入れるまでの長い間オートバイのデメリット(暑い・寒い・危ない)ばかりを背負い込まなければならない。

初心者がオートバイを操るエクスタシーに近づく一番の早道は、まずは4ストロークの125ccマニュアルミッション車に乗ってみることだと私は思っている。せせこましい公道上でも中型車より比較的安全にエンジンパワー全域を楽しめる。非力なエンジン故に各ギアを効率よく使い分ける技術もすぐに身に付くし、街なかでの取り回しだって中型車に比べると段違いにラクチンだ。
なのにもはや125ccのマニュアルミッションのロードスポーツ車国産車を新車で購入することは不可能になり、メンテの不安のない新車に乗りたい初心者はいきなり250ccや400ccに乗って路上に出るしかない。これはオートバイを楽しむ層の裾野を拡げるのにはあまりいい事態とは言えないと思う。

125ccが絶滅しまた中型のマニュアルミッション車にいささか元気が無い反面、いわゆるビッグスクーターが花盛り。600ccを超える大型車まである。確かに街の中でもハーフヘルメットのスクーター乗りをよく見かける。最近訪れたバイク用品の大型店でもビッグスクーターのドレスアップパーツコーナーが広く取られていた。二人乗りを見かけるのが多いのもタンデムがラクチンなビッグスクーターゆえだ。

売れている市場に商品群を投入するのは企業としては当然だと思う。
しかしながら今のオートマチック二輪車の隆盛には、オートバイのみが与えてくれるエクスタシーからはいささかずれたものを感じるのだ。
いまやわが国ではオートバイは生活必需品ではなく趣味の道具に近い。そして優れた趣味の道具にはどうあってもその道具を操ることによって生じる「エクスタシー」が欠かせないのだ。オートバイを「デザイン」する、というのはフォルムやファッションを作ることではなく、オートバイから得られる「エクスタシー」をどうカタチにするか、ということだ。


写真のオートバイは私がいままで乗って来たオートバイの中で一番美しい形だったと思っているヤマハTY175(125cc登録のまま競技用の175ccエンジンに積み替える、というイケナイことをしてた。)。ポンコツ二台からなんとか一台分のパーツを揃えフルレストアした。競技用車ゆえにフォルムに余計な要素は何一つ無く最短距離の形をつないでいるだけなのだが、それでいてどうしようもなく色っぽい。横から見る姿もスバラシイのだが、なにより跨って見下ろすタンクの形が絶品。ずっと跨って眺めていたくなる。跨った位置から眺めて美しいバイクって意外に少ないのだ。未だに手放した事を後悔。