鯨と豆腐と伝統と文化。

 鯨をめぐってなんだかオーストラリアに宣戦布告でもしそうな勢いで愛国人士の方々が噴き上がっているようですが。

 しかしさっぱりわからないのが、日本の政府が多額の税金を使い国際的なロビー活動までして捕鯨を継続することに執着する理由だ。
 「捕鯨・鯨食は守るべき日本の文化」って言われても。沿岸に回遊する鯨を漁民がそれぞれの地域で捕まえて水揚げするのならわからないでもないけど、巨大な捕鯨船南氷洋まで出かけての企業活動たる捕鯨は「伝統的な文化」とはとても言えんでしょう。
 そもそも捕鯨・鯨食存置派の皆様方にしてからどんだけ鯨食ってんだって言いたい気もするが、実はこの数日の間に鯨どころではない我が国の「伝統食品」がある意味存亡の危機にさらされていたことを知る人は少ないだろう。(私だって知らないでいた。)

 それは何かというと、「豆腐」。
この国では古来より豆腐を作るのに凝固剤として海水から出来る「にがり」を使っていた。そのにがりも大量生産大量消費が美徳であった時代には合成薬品たる純塩化マグネシウムにとってかわられていたわけであるが、近年になって天然のにがりを使って作られた豆腐の方が好まれるようになり、”愛国心教育”を推進する我が国の政権にとっても喜ばしい「伝統回帰」の風潮が出来ていたのだった。

 で現在豆腐製造業者に「伝統的」なにがりを供給しているのはやはり「伝統的」な製法で海水から塩を作ってる人々によるものなのだが、彼らがこの四月でにがり製造を断念せざるを得ない事態を迎えていたのだ。詳しくは社民党衆議院議員でジャーナリストでもある保坂展人氏の「保坂展人のどこどこ日記」のこのエントリーを読んでいただきたいが、要は

1)唐突な大臣告示によって今年度よりにがりが「食品添加物」となることになってしまった。

2)それによって製塩業者がにがりを出荷するには新たに食品添加物取り扱いの資格が必要となる。

3)食品添加物取り扱いの資格を得るには受講料35万円の講習を35日間にわたって受けさらに国家試験に通る必要があり、かつその講習や試験は東京一カ所でしか行われていない。

4)受講料35万円に加え東京での滞在費などで100万円近い出費と一ヶ月余の休業が必要となるが、現在良質のにがりを出荷している人々は四国や九州・沖縄などの過疎地や離島に集中しているうえにほとんどが家族経営の零細事業者なので今回の大臣告示によってかなりの事業者が実質上にがり出荷を断念せざるを得ない。

 ということであった。
一通の大臣告示によって私達の知らないうちに抹殺されそうになっていた「日本の伝統的な食の文化」は実はギリギリのタイミングで一人の民主党議員によって救われたのだが、そのいきさつも保坂さんが書いておられるのでぜひリンク先を読んでいただきたい。

 「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」。
突然政権を投げ出しこの国を混乱に陥れた人物とその仲間達が強引に改訂させた教育基本法にはそううたわれている。
 彼らにとって「にがりで作った豆腐」は尊重すべき「伝統と文化」ではなかったのだろう。諫早湾長良川、あるいは辺野古の海の恵みで暮らす人々が作り上げた「伝統と文化」がそうでなかったように。