柳 宗里のヤカン

自分が使うモノはすべて自分でデザインしたい。
が現実にはそれはほぼ不可能だ。
自分がデザイン出来ないものは誰かがデザインしたものを選ぶことになる。
沢山あるもののなかから何かを選ぶ、というのもデザインという作為である。

デザイナーたちはお互いの選択眼の批評にシビアである。というより意地悪い目で同業者の選択眼のレベルを計る。
自分が欲しいのだから他人になに言われてもかまわん!という孤高の選択眼を誇るのも良し。
しかしながら「あいつなに買うてんねん」と陰口をたたかれるのはまだしも、面と向かって「デザイナーがそれ買うたらあかんやろ。」と言われるのはなかなか屈辱的ではある。(わたしは良く言われる。)
かといって一時デザイナーが持ってる携帯電話がやたらINFOBARtalbyばかりになったりしたのもそれはそれで芸の無い話で、わたしなどはつい変化球を選び自爆してしまう。
以前工業デザイナーが集まるBBSにて、家電デザイナーたちの愛用家電をアンケートしたら面白いのではないかと提案して全く無視されたことがあったのだが、いまでも国内家電メーカーのインハウスデザイナーたちはどんな電話機やFAXを使っているのか気になって仕方がない。

イヤミはさておき、デザイン夜話と題しながらモノについてあまり書いてないので、自分が気にいって使っているモノ、あるいはダメダメだったモノなど、ぼちぼち書いていってみよう。

ほぼ毎日使い、使わない時でもレンジの上で出しっぱなしになっていることの多いヤカン。
わたしはいただきもののALESSIのコレを使っていた。見た目よりも容量はたっぷりしており、また広い底面のおかげか湯が沸くのが早い。注ぎ口の形状も湯が細く出てコーヒーを入れるのには適してる。第一台所がインテリア雑誌のオシャレな写真のように華やぐではないか。
ところが注ぎ口に付く鳥型のホイッスルが熱くてミトン無しでは外せない上に、力を入れて外すのがためらわれるような繊細な形状なのだ。(知人が使っていたのはレンジの熱で鳥が溶けてしまった。)
いきおいわたしは折角のマイケル・グレーブス氏のデザインを軽視するようなホイッスル無しのいささか心苦しい状態で使用していた。カッコわるい。

このヤカンが3年程使っていると底部の継ぎ目から水が漏るようになった。どうも最も熱を受ける底部継ぎ目の加工品質が悪かったようだ。
次のヤカンはどれにするかさんざん迷ったのだが、結局柳宗里がデザインした、佐藤商事が昔から売っているものにした。たぶん誰もが一度は目にしたことがあるヤカンだ。
さすがにステンレスの加工精度が高く、どこにも余計な隙間や継ぎ目が見あたらない。
使用されている材も厚みのあるしっかりしたもので、ちょっとぶつけたくらいでは凹みそうに無い。ハンドルの握り具合やお湯を注ぐ時の重量バランスも良く、また広い開口部のおかげで手入れもしやすい。

と、ここまでなら完璧なヤカンのようなのだが、残念ながらわたしにとっては満点ではなかった。というのもわたしのようなコーヒー好きは沸騰直後のお湯を細く長くドリッパーに注ぎたいのだが、加工精度の良さが災いしてか沸騰直後にドリッパーにお湯を注ごうとすると爆沸してしまうのだ。沸騰してしばらくおけば良いだけのことだが、イラチなわたしにはなかなかそれが出来ない。爆沸はメーカーも把握しているはずだ。蓋に開いている圧抜きの穴がもう少し大きければ爆沸を防げると思うのだが、大物デザイナーのデザインを改変するのは抵抗があるのだろうか。

それ以外ではいたって満足している。
手荒く使っても当分、というより殆ど壊れそうにないので永い付き合いになりそうだ。