懐かしき「燈台鬼」!

いきなり「燈台鬼」っていわれてもなんのことかわからないひとが大半だと思うけど。

小学生の頃、あまりのお小遣いの少なさに自分ではマンガ雑誌を買えなかったのでマンガ欲はすべて年長の従兄弟が定期購読していた「少年サンデー」や「少年マガジン」などのお下がりで満たしていた。従兄弟が同時に購読していた「平凡パンチ」などもドキドキしながら隠れ読みしたりもしていたが、やっぱりそこは子供、「サンデー」や「マガジン」の方がオモシロイに決まってる。今でも当時のマンガ雑誌で連載されていたマンガの絵柄をいくつかを鮮明に覚えている。

マンガも面白かったのだけど、当時の少年マンガ雑誌にはそれ以外にも特集記事がいろいろあって、それにも大いに魅せられたのだ。それは「世界の怪奇現象」だの「アマゾンの恐怖」だの「実在する怪物」だのという、今から考えると(というかその当時でも)デタラメきわまりないものなんだけど、アホの子だったわたしは全て実話だと信じて恐怖におののいていたのであった。(今でも覚えているのは「南米の海岸に金色に輝く体長1メートルのヤドカリが出現して一人の海水浴客の腕をちょん切ったかと思うと再び海に消えていった。」という記事だ。)

そういった特集記事にはやけに力の入った詳細な挿絵が添えられてあり、記事の文章もさることながら挿絵の迫力のある描写にも色々なトラウマを植え付けられていたのだが、その中でも「燈台鬼」という伝奇物に添えられた挿絵に強烈な印象を受けたのだ。
その話は奈良時代の設定で、「とある青年が中国に渡ったきり戻って来なくなった父親を捜すために遣唐使になって中国に渡る。紆余曲折の末捜しあてた父は、恐ろしいことに両眼をつぶされ鎖につながれたまま火の点った蝋燭を頭頂部に何本も突き立てられた人間燭台として、中国宮廷高官たちの慰み者になっていたのであった!」という、いかにもありがちな伝奇物語なんだけど、頭上に立てられた沢山の蝋燭から鎖につながれた上半身裸の男の顔中に蝋が垂れてそれはそれは陰惨な描写の、しかしながらものすごい力の入った筆致の挿絵から強烈な印象を受けたのだ。おかげで「僕は大人になっても絶対に中国には行かない...。」とかなり長い間トラウマが残ってしまったくらいだ。

なんで長々とこんなことを書いたかというと。
たとえわたしの脳内に多大な刻印を残したものといえども所詮何十年も前に垣間見ただけのマンガ雑誌の、それもメインのマンガじゃない特集記事の挿絵、生涯に二度と相まみえることなど無いだろうと思っていたのだが、なんとこの「燈台鬼」を含め多くの少年マンガ雑誌の特集記事の挿絵を描いていた画家の画集が最近出版されたのだ!
早速注文して届いた荷物の梱包を解くのももどかしく頁を開いたら、あるある、あの「燈台鬼」の挿絵が!それ以外にも見てると次々に記憶が戻ってくる。「ドラキュラ」や「アマゾンの黄金郷」や「タスマニアの両生人種」。どれも大人になった今見ても迫力満点。物語は陳腐なのが多いけど、挿絵は今見てもちっとも陳腐じゃない。

彼の夫人が今は亡きこの画家の言葉を巻末の対談のなかで話している。
「子供の絵はごまかしちゃいけない、ちゃんと子供に分かるように全部きちんと描かなきゃいけない。」
それを読んでこの挿絵が子供のわたしに残した刻印の理由がわかったような気がした。

昭和30年代生まれの人はわたしと同じ感動を覚えるかも知れない本。

柳柊二怪奇画帖