反則ですよ、この映画。

世界最速のインディアン」、バート・マンローという実在したバイク乗りをモデルにした映画を観た。

主役はニュージーランドの片田舎に独り暮らしの老人。20代の頃に買った「インディアン・スカウト」というオートバイをこつこつと改造し続け、いずれはかのボンネヴィル・ソルトフラットでの世界最速記録に挑戦することを夢見る。やっとのことで仕上がったオートバイと共にまもなく開催されるボンネヴィルでの記録会に挑もうと決心するもののそれまで貯めてきた年金や仲間のカンパでは遠征資金は足らず、船賃を節約するためにオートバイを乗せた貨物船のコックをしながらアメリカを目指す。人々の善意に支えられながらやっとのことでたどり着いたボンネヴィルでも、車検を通すのさえ危うい彼のオートバイは嘲笑を浴びるばかり。だがそんな中、ボンネヴィルという”聖地”に立つことを彼は誇りに思うのであった...。

というお話なんだけど、もうね、題材が「爺さん」と「オートバイ」という時点で鼻の奥がツンとなる反則技。
この爺さんが貧しげな納屋で金属を溶かしてピストンを鋳造するシーンから始まるのだが、その侘びしくも楽しげなシーンで既にわたしの涙腺は徐々に緩みつつ映画は進む。

アメリカを目指して旅立つ朝、普段「応援してるよ、バート!」などと言ってた人々は見送りに来ず、寂しくポンコツ自動車でオートバイを引っ張って港に運ぶ爺さん。その途中、後ろから追いかけて来る沢山のバイク乗りたち。それは普段爺さんのインディアンを「ポンコツバイク」などとからかっていた街の不良たちが餞別を持って駆けつけてきたのであった。
「爺さん、アメリカ人にキウイ魂を見せてやれ!」

この辺でわたくし恥ずかしながら鼻すすってました。

朝っぱらから直管のエンジンをふかして隣人から大顰蹙をくらい、あるいは「汚らしいから庭の雑草を刈ってくれ」と言われガソリンを捲いて火を付けこれまた大顰蹙、はたまたいつも庭のレモンの木に小便をひっかけるのでやっぱり大顰蹙、というシーンが劇中にあったのだけど、実際のバート・マンローもさぞや隣近所の人々にとっては難儀な爺さんだったに違いない。でもね、爺さんは難儀だからいいのだ!

オートバイに乗る人はもちろん、乗らない人にも是非観て貰いたい、とってもいい映画です。

写真はバート・マンローを題材にしたドキュメンタリ本「バート・マンロー スピードの神に恋した男 (ジョージ・ベッグ 著)