「転び公妨」を知っているか?
いささか出遅れた話で恐縮だけど、映像作家の森達也が制作したドキュメンタリー・フィルム「A」を見た。
とてつもなく面白い。
報道のこちら側とあちら側。どちらに視点を置くかで同じ出来事への印象がこうも変わるものか。
「A」に登場するメディア関係者や「一般市民」の、”正義”に対する後ろめたさが感じられないことの異様さ。映像に映る彼らの目はまるで死んだ魚のようだ。そしていわば「犯罪を犯した肉親に対する近親者」としての自分の立場に悩むオウム信者達。このドキュメンタリーを見た人の多くがいつの間にか自分をオウム信者達側の立ち位置に置いている自分に気づき愕然とするだろう。
報道に「中立」などあり得ない。「なにをどう伝えるか」は思想や主観に左右されるものであるのは当然だけど、さらに大きいのは「なにを伝えないか」という選択も思想や主観であるということだ。「A」を見ているとメディアの「なにを伝えないか」という選択がわたしたちの価値判断を大きく左右しているであろうことを視覚的に思い知らされる。テレビや新聞というメディアに疑問を抱かずに来た人々にこそ是非見て欲しい作品だ。