地球の笛吹き。


 iPhoneがわたしの手元に来てから数ヶ月。そろそろ飽きてもいい頃だと思われるだろうが、実は一向に飽きる気配もなく、どころかワクワク感がずっと持続している。というのも次から次にリリースされるiPhone用アプリケーションに「その手があったか!」とか「やられた!」という驚きを与え続けられているからだ。

 中でも感動したのがiPhoneをオカリナにしてしまうアプリケーション「Ocarina」。
マイクに息を吹き込んで音を鳴らすアイデアが素晴らしい。いわば超シンプルなウィンドコントローラーであるのだ。たった四つの”穴”を押さえたり離したりするだけで大概の曲は吹けてしまう。息の強弱で音量も変えられ、iPhoneを傾けることでビブラートも付けられる。また簡単にキーやスケールを変えることができるのはデジタルならでは。運指を図示してくれる楽譜もユーザーによってアプリの発売元サイトに次々にアップされているので簡単な曲ならその場ですぐに吹けるようになる。


 だが「Ocarina」の面白さはそこじゃない。
世界のいろんなところで「Ocarina」を吹いている人々のいきぶきをリアルタイムで感じることが出来るのだ。「Ocarina」を起動すると自動的にサーバに接続され自分の吹く音がリアルタイムでアップされる。と同時に画面上の仮想地球の上にまたたく無数の光点で表示される「地球の笛吹きたち」が今奏でてる音もわたしのiPhoneにストリーミングされスピーカーから流れてくる。

 最初に「Ocarina」を起動し誰かの吹く笛の音を聴いたときはなんとも不思議な気分になった。これまでも世界中の見知らぬ人々とテキストや音声を通じて話して来たが、それらを初めて体験したときとはまた違った感覚。たどたどしい笛の音が聞こえてくるだけなのに、回線の向こう側に居る人々の体温が伝わってくるような感覚。こんなに平和な気分になったのは久しぶり。

 ネット黎明期に夢見た「国境の無い世界」。ビジネスや政治に翻弄される今のネット状況を見ればそれがナイーブすぎる夢想であることはいかな脳天気な私とて思い知らされるせちがらい毎日ではあるし、「Ocarina」の仮想地球上の光点を見ても笛吹達の居る場所が”富んだ国”に偏っているという現実を思い知らされる。それでも、地球のあちこちから聞こえてくるたどたどしい笛の音を聴いていると「ナイーブな夢想も悪くないんじゃないか?」なんて。

 この季節、世界のあちこちから聞こえてくるのはぎこちないクリスマスソング。みんなきっとクリスマスパーティで披露すべく練習してるのだろう。0と1に変換されたクリスマスソングだけど、0と1の向こうにそれぞれの人々のそれぞれの暮らしが見えてくる。

 何の生産性向上の役にも立たずただ世界中の人々が吹く笛の音を聴くことが出来るだけのソフトはApp storeにて115円で発売中。

追記:
このエントリをアップした直後に”au楽器ケータイでインタラクション・デザインを追求する”なる記事を見つけた。う〜む。YAMAHAが絡んだらこうならざるを得ないのかも知れないが、「Ocarina」の”デザイン”の素晴らしさを知った後ではハゲしくずれまくってるとしか言いようがない(デモ動画、はっきり言ってものすごく恥ずかしい...)。このライターのヨイショもダメすぎる。「ガッキケータイを持った人が武道館に1万人集まって同時に音を出したらどうなるだろう。わくわくする想像である。」って...。